マネジリアルアイデンティティを抱くことの重要性
最近、「次世代リーダー研修」を各企業とも考えており、講師として登壇する機会も増えている。
各企業とも、「階層別研修」に貴重な資源を投資するよりも、「選抜型研修」を実施し、若いころから「経営者候補者」を見出し鍛えていこうと、研修そのものが大きくシフトしてきている。
だが私は、この次世代リーダー候補者の傾向としてとても気になることがある。
日本の偏差値の高い大学を卒業した後、欧米の大学院・MBAコースや、日本のビジネススクールで、数年勉強してきた受講生に多い傾向なのだが、事前に渡したケース研究において、「現状分析のフレームワーク・テンプレートワーク」は、とてもよく学んできており、現状分析まではほぼ完璧にやってくる。
しかし、そこから「戦略構築」「運営方針策定」になると、急に稚拙になり、「現状の問題の裏返し」を安易に書いてケース研究をしたつもりになってしまっている。
現状分析に95%以上パワーを割き、肝心の「戦略構築」「運営方針策定」には5%程度のパワーで終わっているのだ。そして、研修会場に「私は、ケース研究を真剣にやってきました。パーフェクトの中身です」と、大きく自信をもってやってくる
私は、これを「フレーム病」「テンプレート病」と名付けている。
MBAやビジネススクールで学んだフレーム・テンプレートを駆使することだけで、「経営学を学んだ気」になってしまっている。
最も重要な戦略構築・運営方針策定とは、「現状を分析したら、自然とできるものだ」と安易に思い、現状分析に大きなパワーを割いて、現状を裏返してそこで終わる。
そういう受講生が、ここ3~4年で、随分増えてきたように思う。
恐らく、欧米の一流MBAや日本のビジネススクールで、そういうフレームやテンプレートを熱心に教えてもらってきたのだろう。
戦略構築で一番重要なことは、現状分析した後、現状を一旦置いて、「マネジリアル アイデンティティ(マネジャーが、これだけは絶対にやって行きたいという主体的意思)」を持って、新たなビジョン・組織目的を作っていくことである。
そのマネジリアル アイデンティティがまるで無い中で、どんなに現状を深く分析し、完全に現状を押さえたとしても、戦略も描けなければ創造・変革も起きるはずはないのだ。
将来の経営者・優秀なマネジャーを本気で目指すならば、現状分析のフレームやテンプレートを学ぶことよりも、若いころから哲学書や歴史小説を読み、一流の絵画・音楽を鑑賞し、映画を観、世界各地を一人旅して「真・善・美」を磨くべきだろう。
「真・善・美」を磨きこんでいないと、将来、孤独になった際に「会社の未来構想・ビジョン」を練るだけの胆力も、主体的意思も、身につかないだろう。
現状分析のためだけにフレームとテンプレートだけを学ぶMBA通いも、ビジネススクール通いも、そろそろ限界にきている。そこで学んだあと、いかにマネジリアル アイデンティティを身に着けていくことができるか?ここにかかっていると私は思う。